『小さな畑』

『小さな畑』とは

2012年

この「小さな畑」は佐々木勇三郎さんが綴った震災体験を読ませていただき、浮かんだままを詞に、感じたままを曲にしました。

佐々木さんは宮城県仙台市内にご自宅をお持ちですが、畑をつくる夢を果たすべく同県亘理町荒浜に小さな畑が作れる小さな家を購入されました。港町である荒浜では釣りをし、畑を耕し、奥様と楽しまれていらっしゃいました。そこを東日本大震災の津波が襲い掛かったのです。当日お一人で自宅に居らした佐々木さんは大地震と大津波に飲み込まれそうになりながらもご苦労の末、何とか生き延び仙台のご自宅にたどり着くことが叶ったそうです。

津波の瓦礫と泥にまみれてしまった家。もう諦めようとお考えになったと。しかし、そこへボランティアの方々が、来る日も来る日も訪れては泥をかいてくれる姿。まだ冷たい水で汚れた器を洗ってくれる女の子のしゃがんだ小さな背中。そんな方々に出逢い、過ごす内に「いつのまにか、ここを全て放棄しようとしていたことを、忘れていたようである。」と。

震災は多くの人々から愛する人奪って、大切な思い出を奪って去りました。私自身は家を流出し危険区域という括りで帰ることを許されず居場所を失いました。が、家族を失わずに済んだことに感謝する日々です。そんな中で出会わせて頂いた佐々木さんご夫婦はとても前向きで素敵で、直ぐに憧れてしまうほどでした。そんな出逢いが、失ったものを数えるより出会う人やものを数えて行こうと思わせてくれたのです。

そんな佐々木勇三郎さん、昌子さんご夫妻と、ボランティアの皆様に、こころからの「ありがとう」を込め、この曲を書きました。

 

歌詞

『小さな畑』

 

波にあらわれた 小さな家の小さな畑

一度は逃げ出すことを思っていた

あの日あなたが

ここで泥と戦ってくれなければ

あの日あなたの

こつこつ器を洗う背中に出会わなければ

きっと 放り出していたでしょう

家も 畑も この風景も

 

今はまだ 海へと足は向かないけれど

ビルの街から ここへとやって来る

この小さな畑が 待っている気がして

 

 

友が送ってくれた 秋蒔きの蓮華草

待ちきれずに 春だけれど蒔いてみた

その種は

見事に芽吹き 海風を緑に香らせ

菜の花は土と

蝶々たちを癒し また種を蓄えて

私に勇気と進む力をくれた

あの日のあなたの背中のように

 

今はまだ 妻を喜ばす実は生らないけれど

二人並んで 腰を屈めていると

この小さな畑に 守られている気がして

 

 

今はまだ 海へと足は向かないけれど

あの日あなたが尽くしてくれた この器は

私に勇気と進む力をくれる

 

あの日あなたが尽くしてくれた この家が

この小さな畑が 待っているから